はじめに
IT導入の方式として、今もなお強い存在感を持つのがスクラッチ開発です。
「自社業務に完全に合わせられる」「柔軟に作り込める」といった理由から、スクラッチを選択する企業は少なくありません。
一方で、IT導入の失敗事例を振り返ると、その多くにスクラッチ開発が関与しているのも事実です。
本記事では、なぜスクラッチ開発は失敗しやすいのか、そしてどのような業務であればスクラッチが有効なのかを、情報システム担当者の視点で整理します。
スクラッチ開発が失敗しやすい構造的理由
スクラッチ開発の失敗は、技術力不足ではなく「構造的な問題」に起因します。
要件が肥大化しやすい
スクラッチ開発では、「せっかく作るなら」という心理が働きやすくなります。
その結果、
- 現状業務をそのまま再現したい
- 将来使うかもしれない機能を入れたい
- 部署ごとの要望をすべて反映したい
といった要件が積み重なり、設計が複雑化します。
要件が固まらないまま進むプロジェクトほど、コストと期間は膨らみます。
保守・運用フェーズが想定されていない
開発時点では「完成」がゴールになりがちですが、実際のシステムは稼働後の方が長く使われます。
- 担当者が異動・退職した
- 開発会社が変わった
- ドキュメントが不十分
こうした状況で、誰も手を入れられないシステムになってしまうケースは珍しくありません。
特定ベンダー・担当者への依存
スクラッチ開発は、設計思想や実装方針が個別最適になりやすく、属人化のリスクが高い方式です。
結果として、
- 改修のたびに高額な見積になる
- 仕様の全体像を把握できる人がいない
といった状態に陥ります。
それでもスクラッチが向いている業務とは
スクラッチ開発自体が悪いわけではありません。
重要なのは「使いどころ」です。
競争優位の源泉となる業務
他社と同じやり方では意味がない、自社独自の強みが業務プロセスに直結している領域では、スクラッチ開発が有効です。
- 独自の価格算定ロジック
- 特殊な製造・物流フロー
- 企業文化に根差した業務ルール
これらは既製品では表現しきれないことが多く、スクラッチの価値が発揮されます。
変化を前提とした業務
事業環境の変化が激しく、仕様変更が頻繁に発生する業務では、柔軟に改修できる設計が重要です。
ただしその場合、開発体制・内製力・設計思想が伴っていることが前提になります。
スクラッチを避けるべき業務
一方で、以下のような業務ではスクラッチ開発は慎重に検討すべきです。
業界・業務で共通化されている領域
- 会計
- 勤怠
- 販売管理
- CRM / SFA
これらは多くの企業で共通する業務であり、成熟したパッケージやSaaSが存在します。
独自実装することで得られるメリットは限定的です。
IT人材・体制が十分でない場合
スクラッチ開発は「作る力」よりも「支え続ける力」が問われます。
体制が整っていないまま進めると、完成直後から負債化します。
スクラッチは「最後の選択肢」に近い
実務的には、次のような順序で検討するのが現実的です。
- SaaSで代替できないか
- パッケージで吸収できないか
- それでも足りない部分をスクラッチで補う
スクラッチは「最初に選ぶもの」ではなく、他の選択肢を検討した上で残った領域に使うものです。
次回予告
次回は 「パッケージ・SaaS導入はなぜ失敗するのか」 をテーマに、
標準化と業務適合のズレ、導入後に起きがちな問題を整理します。