【読み物】誰も知らないプログラム(第四話)

オフィスにたたずむ若手エンジニア

IT業界を舞台にした読み物シリーズの第四話。
前回のお話はこちらから

前回、高橋は地下書庫で佐伯のノートを発見しました。
そこには設計書ではなく、お客様の業務や現場についての観察記録が残されていました。
そして最後のページには、気になる一言が書かれていました。

障害報告書を探せ

二十三年前に何が起きたのか。
その手がかりを求めて、高橋はさらに過去を追い始めます。

仕事の合間や通勤時間など、肩の力を抜いてお楽しみください。


第四話 消えた報告書

翌日。

高橋は朝から地下書庫にいた。
机の上には前日見つけた佐伯のノート。
その横には段ボール箱から掘り出した資料が積み上がっている。

「障害報告書を探せ、か……」

高橋はノートに書かれた文字を見つめる。

二十三年前の障害。
佐伯がわざわざ最後に残した言葉だ。

何か重要な意味があるはずだった。

プロジェクト資料を順番に調べていく。

会議記録。
テスト結果。
問い合わせ管理票。
障害対応記録。


昼前になってようやく目的のファイルを見つけた。
背表紙にはこう書かれている。

2003年 障害報告書
販売管理システム

「やっと見つけた……」
高橋は思わず声を漏らした。

ファイルを開く。
最初のページには障害概要。
二ページ目には発生時刻。
三ページ目には影響範囲。

障害発生日 2003年12月17日

高橋の手が止まる。
その日付には見覚えがあった。

// この先を変更するな
// 理由はいずれわかる
// 2003.12.17

コメントと同じ日だ。
偶然とは思えなかった。

高橋は急いで続きを読む。

障害内容。
データ不整合。
出荷停止。
対象拠点四か所。
復旧まで十時間。
かなり大きな障害だった。

「これか……」

しかし違和感があった。
資料はそこから急に不自然になる。

原因分析。
対策。
再発防止策。

本来なら書かれているはずの内容が見当たらない。

途中のページ番号を見る。

7
8
9
13
14
15

高橋は目を疑った。

10ページから12ページがない。
三ページ分だけ抜けていた。

偶然とは思えない。
他のページを何度も確認する。

やはり存在しない。

まるで誰かが意図的に抜き取ったようだった。
「なんだよこれ……」

高橋は椅子にもたれる。
障害発生日はコメントが書かれた日。
報告書は存在する。
しかし最も重要そうなページだけがない。

まるでミステリー小説だ。

その時だった。
ファイルの裏表紙に小さな付箋が貼られていることに気付いた。

色褪せた付箋。
そこには手書きでこう書かれていた。

正式な原因ではない

高橋は眉をひそめた。

正式な原因ではない。
どういう意味なのだろう。

障害に原因は一つではなかったのか。
そこでふと思い出す。

佐伯のノート。

仕様通りに作るだけでは失敗する

そして、

システムは正しい
でも現場はもっと正しい

同じ匂いがした。

技術的な原因とは別に、
何か別の問題があったのではないか。


夕方。
高橋は山口の席へ向かった。

「山口さん」

「どうした」

「障害報告書、見つかりました」

山口は少し驚いた表情を浮かべる。
「本当に見つかったのか」

「はい。でも変なんです」

高橋は資料を差し出した。
山口はページをめくる。
そしてある箇所で手を止めた。
「やっぱり無いか……」

「知ってたんですか?」

山口はしばらく黙る。
「昔から無かった」

「どういうことです?」

「俺が見た時も無かった」

高橋は言葉を失った。

つまり、
十ページから十二ページは二十年以上前から存在しない。

「誰が抜いたんですか」

山口は首を横に振る。
「分からない」

「佐伯さん?」

「かもしれない」

「なぜ?」

山口は少し考えた。
そしてぽつりと言った。
「本当の原因が書いてあったんじゃないか」

オフィスに沈黙が流れる。
高橋は思わず笑った。
「それじゃ推理小説ですよ」

「そうかもな」

山口も苦笑する。
しかしその目はどこか本気だった。


その夜。

高橋は改めて障害報告書を読み直していた。
すると、
最後のページに鉛筆で書かれた小さな文字を見つける。

ほとんど消えかけている。
目を凝らしてようやく読めた。

12月16日
倉庫担当者ヒアリング実施

高橋は凍りついた。

障害発生は12月17日。
その前日にヒアリングが行われている。
偶然にしては出来すぎている。

さらにその文字の横には、
もう一つだけ記録が残っていた。

帳票運用との不整合
調査継続

帳票運用。
再び現場だ。

プログラムではない。
サーバでもない。
データベースでもない。

高橋は佐伯のノートを開く。
そして気付く。
二十三年前の障害は、
システムだけの問題ではなかったのかもしれない。

画面の中では例のコメントが静かに表示されていた。

// 理由はいずれわかる

「少しだけ分かってきましたよ」

高橋はそう呟いた。
だが、本当の理由にはまだ届いていなかった。


次回予告

二十三年前の障害の直前に行われていた「倉庫担当者へのヒアリング」。
高橋は当時の担当者を探し始める。

しかし思いがけない事実が判明する。
その担当者は、今もお客様の会社で働いていたのだ。

次回 第五話「現場の記憶」

※本作品はフィクションです。
登場する人物、企業、団体、システム、プロジェクト等は架空のものであり、
実在のものとは関係ありません。
ただし、システム開発やIT業界で働く人々に共通する想いや経験を題材として構成しています。

【読み物】誰も知らないプログラム(第一話)
【読み物】誰も知らないプログラム(第二話)
【読み物】誰も知らないプログラム(第三話)

あとがき

システム障害というと、プログラムのバグや機器故障を思い浮かべる方が多いかもしれません。
実際には、業務運用や組織変更、情報伝達のズレなど、技術以外の要因が大きく関わることもあります。

今回の物語も、少しずつ「システムの問題」から「仕事の問題」へと視点が移り始めています。

よろしければ次回もお付き合いください。

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