第1回:なぜいまOSSなのか?業務利用が広がる背景|情報システム担当者のためのOSS業務利用実践ガイド

はじめに ― OSSが当たり前の時代に


かつてオープンソースソフトウェア(OSS)は、一部の技術者や研究者が利用する特殊な存在でした。しかし、いまや状況は大きく変わり、業務システムの基盤としてOSSを活用する企業は年々増加しています。サーバOSのLinux、データベースのPostgreSQL、クラウド基盤を支えるKubernetesなど、OSSは「裏方」として私たちのIT基盤を支える不可欠な存在となっています。

本連載では「OSSを業務でどう活用すべきか」をテーマに、全5回にわたって解説します。初回となる今回は、なぜ今OSSの業務利用が加速しているのか、その背景を整理します。

OSSの歴史と理念


OSSの起源は1980年代に遡ります。当時、ソフトウェアは「製品」ではなく「共有される知識」として扱われていました。しかし90年代以降、ソフトウェアの商用化が進むとともに、ソースコードが非公開となり、ユーザーが自由に改変できない状況が一般化します。
こうした流れに対抗する形で「誰でもソースコードを利用・改変・再配布できる」という理念を掲げたのがOSSです。LinuxやApache HTTP ServerといったOSSプロジェクトが象徴的な存在として広まりました。

この理念は単なるコスト削減の手段ではなく、知識や技術を社会全体で共有する文化として支持され、現在に至っています。

業務利用が広がる背景


では、なぜここ10年でOSSの業務利用が急速に広がったのでしょうか。大きく3つの要因が挙げられます。

  1. クラウド時代の到来
    クラウドサービスの多くはOSSをベースに構築されています。AWS、GCP、Azureといった主要クラウドベンダーも、裏側ではLinuxやOSSのデータベース、コンテナ基盤を活用しています。これにより、企業が自然とOSSに触れる機会が増えました。
  2. コミュニティとエコシステムの成熟
    OSSはコミュニティの貢献によって成長します。現在では大規模な開発者コミュニティが存在し、バグ修正や新機能追加が商用製品と同等以上のスピードで行われています。結果として「安心して使えるOSS」が増えてきました。
  3. コストと柔軟性の両立
    ライセンス費用を抑えつつ、必要に応じて自由にカスタマイズできる点は、特に業務システムにおいて大きな魅力です。ベンダーロックインから脱却したい企業にとってもOSSは有力な選択肢となっています。

OSS利用の広がりがもたらすメリット


OSSを業務に利用することは、単にコストを削減するだけではありません。以下のようなメリットが期待できます。

  • 透明性:ソースコードを公開しているため、セキュリティや挙動を検証できる
  • 拡張性:自社のニーズに合わせてカスタマイズ可能
  • 標準化:国際的に利用されているOSSを選ぶことで、グローバルな標準に準拠できる
  • 人材確保:OSS技術を活用することで、採用市場でのエンジニア育成・獲得が容易になる

これらのメリットは、システムを長期的に運用する企業にとって極めて重要です。

具体的な活用事例


いくつかの業界での活用事例を見てみましょう。

  • 金融業界:高信頼性が求められる基幹システムでも、PostgreSQLやMariaDBといったOSSデータベースが導入されています。
  • 製造業:IoTシステムの基盤としてOSSのメッセージング基盤(Kafkaなど)が活用されています。
  • SaaS企業:自社サービスをOSS上で構築し、スピード感とコスト効率を両立しています。

このように、OSSはもはや「コスト削減のための選択肢」ではなく、「競争力を高めるための基盤」として業務利用が進んでいます。

まとめ ― 次回予告


本記事では、OSSの歴史、広がりの背景、そして業務利用がもたらすメリットについて整理しました。
次回は「OSSを業務利用するメリットとリスク」に焦点をあて、導入を検討する際に押さえるべきポイントを詳しく解説します。

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